AEDの歴史とこれから
いつでも、どこでも、誰にでも起こるかもしれないこと、それが突然の心停止(心臓突然死)です。日本国内では、突然の心停止で1日に200人以上もの方が亡くなっています。
突然の心停止の多くは、心室細動が原因です。心室細動になると心臓がけいれんし、脳や身体に血液を送ることができなくなって、意識を失って倒れてしまいます。
そのまま何も処置をしないと、1分ごとに7~10%生存率が下がりやがて死に至る、とても危険な状態です。救急車をただ待っている間にも、救命率は下がっていきます。
心室細動の最も有効な治療法は、AEDによる電気ショックです。心停止で倒れた方のそばに居合わせた市民がAEDで1分1秒でもはやくAEDで電気ショックを行うことが、救命の鍵を握るのです。
今から20年前の2004年7月、それまで医療従事者にしか許されていなかったAED(自動体外式除細動器)の使用が、一般の人にも認められるようになりました。これは、高度な医療行為である「電気ショック」を一般市民に解放したという点で、救命医療に新しい時代を開く出来事でした。
AEDの日本での導入は、米国の流れに従って2001年に国際線の航空機へのAED搭載が認められたことがきっかけの一つでした。その後、段階的な規制緩和を経て、2004年7月に一般市民へのAED使用が認められたのです。
2001.10
航空機国際線にAEDが搭載
2001.12
航空機乗務員にAEDの使用許可
2002.12
日本循環器学会が医師ではない人によるAED使用推進を提言
2003.4
救急救命士のAEDによる除細動が医師の指示なしでも可能に
2004.7
厚生労働省が一般市民によるAED使用を認可
街中へのAEDの設置台数は急速に増え、現在では約67万台が設置されていると推計されています。また、消防署や日本赤十字社などが開催する救命講習会や、学校での救命授業などを通じて、AEDを使える人や、救命に協力してくれる人を増やす努力も続けられてきました。
AED設置台数
約67万台
その結果、AEDによる救命件数は年々増加し、2019年には年間703人もの命がAEDによって救われました。コロナ禍の影響で一時的に減少したものの、2022年には618人が救命され、AED解禁から20年間の累計では、少なくとも8,000人もの尊い命が、その場に居合わせた一般の人によるAEDで救われたのです。
総務省消防庁: 令和5年版 救急救助の現況:救急編
なぜAEDが必要なのでしょうか。それは、突然の心停止のほとんどが、心臓がけいれんする心室細動という不整脈が原因だからです。心室細動を起こすと、心臓は血液を送り出すことができなくなり、そのまま放置すれば、1分ごとに7~10%ずつ助かる可能性が下がっていきます。
出典:公益財団法人日本AED財団ウェブサイトより
この心臓のけいれんを止める最も有効な方法が、AEDによる電気ショックなのです。2022年の総務省消防庁の集計によると、その場に居合わせた人が心肺蘇生とAEDによる電気ショックを行った場合、なんと50.3%もの人が助かっています。一方、119番通報のみの場合は6.6%、心肺蘇生を行ってもAEDを使用しなかった場合は9.9%しか助かりませんでした。さらに、AEDを使用した場合、助かった人の85%が社会復帰を果たしているのに対し、使用しなかった場合は、助かった人の半数が重い後遺症を負っていました。
出典:心原性心停止を目撃された28,834例(総務省消防庁2022年全国集計)
それだけAEDの効果が絶大なのであれば、もっと多くの命が助かるはずですが、実際にAEDによる電気ショックが行われたのは、目撃された心停止の4.3%に過ぎません。その原因としては、住宅街でのAEDへのアクセスの悪さや、高齢者の同居世帯では、AEDを取りに行けないことなどが考えられます。また、心肺蘇生が不十分だったり、AED電極パッドを貼るタイミングが遅かったりすると、「ショック不要」と判断され、AEDを使っても電気ショックが行えないこともあるのです。
出典:心原性心停止を目撃された28,834例(総務省消防庁2022年全国集計)
さらなる救命率の向上のためには、大きく2つの課題があります。
1つ目は、いざというときに、より一層AEDを使い易くすることです。コンビニエンスストアや公衆トイレなど、わかりやすい場所へのAEDの設置や、場所を知らせる標識の設置、検索システムの整備なども求められます。
2つ目は、いざというときに協力できる人を増やすことです。一般市民を対象とした救命サポーターの育成です。それには、救急蘇生法を多くの人に知ってもらうことです。学校での救命教育を一層充実させ、アプリなどを利用した学びの効率化も有用です。
もちろん、国の救急システムの改善も欠かせません。2022年の調査では、119番通報から救急車の到着まで、全国平均で10.3分もかかっています。この時間を短縮するためには、救急車の適切な利用を促すトリアージシステムの導入や、バイクや他の車両を活用したAEDの運搬なども有効でしょう。119番通報の際の口頭指導の充実や、民間の救命サポーターとの連携強化なども進められています。
AEDによる救命は、その場に居合わせた市民の力が大きなカギを握っています。AEDが私たち市民の誰もが使えるようになって20年。この20年で、AEDは身近な「設置されていて当たり前なもの」となりました。
次の10年では、AEDが私たちにとって「いざというとき、当たり前に使用するもの」となるために。ぜひ、AEDのことを知ってください。そして、あなたの身近な方に教えて広めてください。
いざというときには、ためらわずAEDを呼べる社会に。